西新宿の青梅街道沿いに建つ、事務所兼用の2世帯住宅。地下1階・1階がテナント・スペース、2・3階がクライアントの事務所、4階が叔母の住居、5〜7階がクライアントの住居である。敷地は間口4.5m×奥行13.5mの18坪の狭小地。周囲も同様の敷地で、縦長のペンシルビルが建ち並ぶ。
もともとこの地にあった、クライアントの3層の建物は、周囲の6〜8層の建物に囲まれ、内で暮らしていると、外の天気も分からないほど薄暗い住環境となっていた。
クライアントは、都心の中でゆったりと過ごせ、「子供達に雨の音を感じさせてあげられるような」自然を感じ取ることができる空間を求めていた。
周囲を囲われた状況においては、外部環境を取り入れられるのは、道路に面した前面と、天空に面した屋上しかない。クライアントから求められた「自然環境」と、道路越しに望む、この場所ならではの、「西新宿高層ビルへの眺望」を、如何に建物に取り込むかが設計のテーマとなった。
前面道路に対しては、全面ガラス張りのファサードとしている。その中の開口のあり方、バルコニー・吹き抜けの関係を調整し、都市に対する関係が一様でなく、場所に応じた様々な楽しみが感じ取れるように工夫を施した。
4階から7階にかけては前面に、3層の吹き抜け空間をとった。吹き抜けを通し、ほぼ全面のガラスからは、陽の光が注ぎ込み、雨の日には頭から雨を被っているような気分になる。前面の吹き抜けに張り出した外部バルコニーに立つと、都会と1人対峙しているような気持ちになり、その上には吹き抜けを、見下ろすお立ち台がある。
前面からの光が届かない、奥の部屋に対しては、階段に絡めて、屋上からの光井戸のような吹き抜けをいくつか設けた。この光井戸に対して、個室は窓をとり、奥にありながらも、外の気配が感じ取られる、光あふれる空間とした。「「この家はお月様が見えるよ」と子供から教えられました」と、竣工後にクライアントからの喜びの声をいただき、当初の目論見は少しばかりは達成できたのではないかと思っている。
DATA
■建築条件
所在地 :東京都新宿区
主な用途 :住宅、事務所
用途地域 :商業地域
敷地面積 :59.39m2
■建築概要
建築面積 :51.72 m2
延床面積 :379.77m2
構造・規模 :鉄骨造、地下1階地上7階
設計期間 :2002年11月〜2003年4月
工事期間 :2003年5月〜2004年3月
意匠設計 :八尾廣+角倉剛+大野高志
(THTアーキテクツ)
構造設計 :山田構造設計事務所
設備設計 :環境エンジニアリング
施工 :ホームイング株式会社