中原の家 (2018)

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Photo : GO TAIRA

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 敷地周辺の一帯は江戸時代に開削された用水路由来の豊かな水に育まれる良質な米の産地であった。クライアントは一帯を開墾した農家の末裔にあたり、江戸時代より代々この地を受け継いできたご家族である。2010年に受けた相談は、先祖より受け継いだ、もう住んではいない大きな農家を現代的に再生し、新しい住まいにできないかというものであった。敷地及びその周辺にはクライアントの所有する農地のほか、土蔵や井戸、小さな神社や稲荷などが散在し、数々の農具や江戸時代の木札などもその家の歴史を物語っていた。

 早速農家を実測調査し設計に取り組んだが、思いの外その躯体は実用的なもので腐朽、虫食い等により相当に傷んでいた。家の歴史を留めるべく農家を再生する基本設計を行なったが、実施設計において現行の基準法に適合させるために想定外の時間と建設費がかかることが判明し、クライアントの決断により残念ながら農家の再生は断念せざるを得なくなった。

 私たちは、ご家族の累々と継承されてきた歴史と記憶を何とかこの地に残せないかと考えた。しかし、クライアントが現代的な住居を望んでいたこともあり、藁葺きの屋根や板壁といった表面的な仕上げを継承するのでなく、この地の深層にある空間の成り立ちというものを継承することにした。すでに一般的な日本の郊外住宅の様相を呈している近隣の中に、シンボリックな威容を誇っていた農家の大屋根のイメージはクライアント一家や近隣の方々の記憶に残るところでもあり、この大きな屋根を次代の家に継承することを考えた。農家再生の検討をしていた際に、既存躯体の周囲にこれを補強する新規構造で取り囲む必要があることがわかり、大屋根の下に家族の集まる居場所を作り、その周囲を個室が取り囲むプランを描いていた。私たちは新築の設計でもこの空間構成を採用し、中央に大屋根を持つ大きな家族室を持ち、その周囲に諸室や屋外、半屋外のテラスの混在するレイヤーをまとわせ、内部と外部との関係を調停する方法を考えた。設計の過程で様々な困難に直面し一度はプロジェクトが頓挫するかと思われる時期もあったが、クライアントと粘り強くプロジェクトを進め、3年の歳月をかけ完成したのがこの家である。土地の転用や整理とともに、敷地外にあった土蔵を曳家工事で移築し、神社や稲荷も移築して敷地全体を再整備することとなったため、新設される母屋や車庫の屋根を濃いグレー色で統一し、かつての農家の配置をイメージしながら全体のランドスケープも整備していった。また、代々クライアントの祖先がそうしてきたように、風水に関してもチェックを行いながら建物内外の機能や設備類の配置を調整した。結果としてこの建物は近隣において、再びあるシンボル性を獲得する建築となった。寄せ棟の現代的な大屋根を持つこの家がクライアント一家の歴史を継承していってくれることを願っている。

 

※近藤尚弘(room-nアーキテクツ)との共同設計

 

DATA

 

■建築概要

区域区分 :市街化区域

用途地域 :第1種中高層住居地域

敷地面積 :1221.39m2

建築面積 :265.35m2

延床面積 :288.91m2

規模構造 :地上2階、木造(母屋、土蔵、車庫共)

建物高さ :7.50m

 

■期間

設計   :2014.1〜2016.9

工事   :2016.10〜2018.12

 

■設計監理:

建築・設備:八尾廣+近藤尚弘

         (room-n アーキテクツ)

構造   :長坂設計工舎(長坂健太郎)

キッチン :madre (山根ひとみ)

外構   :Garden 8(多田恵里花)

 

■施工:

本間建設 株式会社(河野隆宏)