敷地は良好な環境の、南斜面の住宅地にある。南側の隣地には地上3階建ての住居が建っているが、斜面地の特性から敷地の地盤はその隣地より一段上がっていた。一方、北側にはさらに1mあまり上がった地盤上に5階建てのマンションが建ち、北側からは見下ろされる関係にあるので開口をほとんど開けられない状態にあった。東側の前面道路側は比較的視界が開けており、南北にも適度なアキはあるものの、南北と西の三方が壁に囲まれた、地上に立つとやや薄暗い印象もある敷地であった。しかしながら、地盤が一段上がっていることを利用すると、南側隣家よりもおよそ1階分高くつくれることがわかり、しかもその隣家を超えた部分での南側にはすばらしい眺望が開けていることがわかった。敷地を含むそのエリア全体が大きな南斜面のため、街の眺望と共に、空がとても大きく見えるのである。つまり、敷地は地盤よりも下の道路から入り、1階から2階は周囲が囲われた薄暗い環境にあるが、それよりも上のレベルに上がると突然眺望が開かれ、明るい環境が得られる、暗から明へのグラデーションをなす状況にあるということだ。

 こうした敷地の特性をふまえ、建て主と話し合いを重ねるうちに浮かんだのは、地面の下から建物に入り、下の階ではやや薄暗い中にも上階より光がほのかに落ちてくる空間で、上の階へ上がるに従って明るさを増していき、上の階には空とつながるとても明るいスペースがあるといった、光のグラデーションをなす立体的で多様な生活空間を内包するスペースのイメージであった。下階の落ち着いた光のスペースには夜に寝に帰る個室群を、眺望と光のあふれる上階には家族が共に過ごすスペース(リビングダイニングや浴室など)を配置し、その中間の道路側に、共有スペースの中でも個々の家族の作業を行うワークスペースを配置することで、その場所の光や眺望の状態と、そこでの過ごし方がぴったりと一致し、建物全体の構成が敷地条件の有利不利な条件をうまく生かせる形となった。箱形の大きな空間の中に個々のスペースを好ましい位置に配置してゆくと、結果として様々な天井高さが生まれた。例えば1階のホールは3.6m、個室群は約2.5mと3.6m、ワークスペースは2.1m、リビングダイニングは4.7m、3.6m、2.2m、浴室は2.1mといった具合に様々な高さがあり、いろんな空間のボリュームが体験できる。3階には壁に囲われて"天井が空である部屋"のような坪庭的なテラスもあり、2.5階以上では大きく空が見える。しかもそれらが互いにつながっているために、抑揚に富んだ実に多様な空間体験があり、実際に建物全体を巡ってみると延床面積の1.5倍くらいに広く感じられる。全体として3.5階分くらいの高低差があるにもかかわらず、どこにいてもお互いにつながりを感じられる住空間が実現した。

 こうした空間体験は素直に楽しい。実際にお住まいになりながら、建て主のご家族は日々この空間にいろんな発見をなさるのではないかと期待している。この天地を楽しむ家でご家族がどのようにこれからの人生を楽しまれ、成長されるのか、本当に楽しみである。

DATA

 

■建築条件

所在地  :東京都文京区

主な用途 :住宅

敷地面積  :87.35m2

用途地域 :第1種中高層住居専用地域

 

■建築概要

建築面積 :51.70m2

延床面積 :139.62m2

構造・規模 :木造・地下1階地上3階

設計期間 :2008年1月〜2008年10月

工事期間 :2008年11月〜2009年6月

 

意匠設計 :八尾廣建築計画事務所
      (八尾廣+赤崎盛幸)

構造設計 :長坂設計工舎 長坂健太郎

設備設計  :八尾廣+赤崎盛幸

施工     :関口工務店