Photo : GO TAIRA
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Photo : HIROSHI YATSUO
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敷地は品川区の高台にある高級住宅地である。周辺には一戸建ての中でも非常に規模の大きな邸宅が並び、一部には3階建て程度の中〜小規模な高級マンションが混在している。いずれも一般的な東京の住宅地と比較すると「住宅」と呼ぶには規模が大きく、集合住宅としては比較的穏やかな規模の建物となり、そうした「大きな家」とも呼ぶべき規模の建物が、比較的広めの敷地にゆとりある間隔をもって建っている、都内でも稀有なスケール感の住宅地である。
クライアントは3人家族であり、そのオーナー住宅60坪以上に、35坪前後の賃貸住戸4戸をもつ集合住宅を設計することが要望条件であったが、これは周囲の建物と同様に、住宅としては大規模であるが、集合住宅としては小規模な、周囲の建物と同様の中間的なスケールであった。周囲の建物を観察すると、高級住宅地によく見られる特徴でもあるが、邸宅も集合住宅もセキュリティーを意識したものが多く、道路側に対して閉鎖的な構えの建物が多い。過度の防犯意識が公共の空間に対して閉じることは、公共空間である道周りをプアな空間としてしまい、住宅地全体の街としての質にはマイナスであることから、私たちは今回の建物を、複数の世帯の住む「大きな家」として意識し、公共空間に対してもある程度守りつつも開いた構造の建物としたいと強く思った。
敷地の並びの建物はいずれも道路に対して5〜6m以上のセットバックをとり、道路側に庭などの空地をもったものが多く、道路に対してほどよい距離感で建っていた。これらの建物の壁面線とある程度そろえながら道路側に駐車、駐輪スペースを確保した建物へのアプローチ空間を形成し、そこに植栽を施して一種の前庭として機能させる構成は自然に導かれた。
数々のスタディと、クライアントとの対話の結果、下の2階は賃貸、3階がオーナー住宅というオーソドックスな構成に至ったが、私たちはこのひとまとまりのボリュームをチャコールグレイのRC断熱仕上げでくるみ統一したファサードを形成して、そこに穿たれ開口部を多様な<窓>として見立て、その窓を通して奥に各世帯の生活の様子が伺える構成とすることで、建築全体に統一感と人の住む生き生きとした雰囲気をもたらそうと考えるようになった。窓はあえて床までの大きな開口部として、その奥に見えてくるキッチンの水回りの壁面、賃貸住宅の玄関パネル、オーナー住宅の南北のゾーンを隔てる壁などに、それぞれタモ材やシルバーの金属パネル、杉板型枠の打ち放しコンクリートなどの素材感を生かし、またカーテンも私たちが各住戸にそれぞれ異なる色のカーテンをコーディネートしていった。開口部にはそれぞれの世帯が目隠しや生活の表出のために植栽やオブジェ、家具などを配置するであろうし、開口部の奥に層状に見え隠れする面的な要素がそれぞれの開口部の性質を多様に見せてくれるであろう。夜にはこれらの面がライン照明によって浮かび上がる工夫も仕込んだ。こうした開放的なつくりとできたのは、私たちの提案した、この集合住宅を単によくできた建物であるだけでなく、周辺の住宅地の公共性に少しでも寄与するものとしたいという考えにクライアントが共鳴してくれたことによるところも大きい。
※遠藤克彦(遠藤建築研究所)、近藤尚弘(room-nアーキテクツ)との共同設計
DATA
■建築条件
所在地 :東京都品川区
主な用途 :共同住宅(オーナー住戸付き集合住宅)
(オーナー住戸:60坪以上+賃貸住戸35坪前後×4戸)
敷地面積 :497.16m2
用途地域 :第1種低層住居専用地域
その他 :第1種高度地区、日影規制4h/2.5h(1.5m)
品川区みどりの条例による敷地内緑化、接道部緑化
■建築概要
建築面積 :284.25m2
延床面積 :735.90m2
構造・規模 :RC造・地上3階
設計期間 :2013年6月〜2014年3月
工事期間 :2014年4月〜2015年3月
意匠設計 :八尾廣+遠藤克彦+近藤尚弘
(遠藤克彦建築研究所、room-nアーキテクツ)
構造設計 :長坂設計工舎 長坂健太郎
設備設計 :有限会社 Comodo設備計画 山下直久
照明デザイン :Lighting.air 藤倉昭人
施工 :株式会社 佐藤秀